Steam ゲームレビュー1 ”FIREWATCH”

最近ゲームばっかしてるのでゲーム記事書いた。多分今後も書くのでその1とする。

実は次回、誌で用意してる企画が、…まぁ色々ありまして。

載せる場所もないのでブログに投げる。

 

Firewatch

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http://store.steampowered.com/app/383870/?l=japanese (このゲームはPS4版が発売されていると聞いて、PS4しか持っていなかった僕は小躍りして探したが、なんと米国アカウントのみの販売だった。というわけで販売は事実上steamのみ。)

 

 

 最近多くのゲーム会社(特にスタートアップ企業)が、ひたすら広大で凝ったマップを用意すればプレイヤーが喜んで飛び跳ねまわると思ってる。冗談じゃない!プレイヤーは全員超近視眼的なので五秒毎にタスクを思い出さないと広大なマップでとりあえず身近な人を殺しまくるという最悪の暇つぶしに興じて、しかも自分ですぐに飽きてレビューに「広いだけの糞マップ」とつける、クリオネみたいに素朴で、マンボウより精神が脆弱な人々なのだ。「全部自由にやらせてくれよ!」の類いの請願を真に受けるとそうなる。そしてこの問題に関して、このゲームはとてもクリアな解答を用意したと思う。

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いくらかの選択肢を交えながら叙情的に主人公ボブの経緯を語り終えたあと、君は森林火災監視員に就任して、普段は高い木組みの塔の上で生活しながら、時にトランシーバーの向こうの女性の指示を受けて、森の向こうの不審な火元や花火の類いを発見する。そしてそれを確認したり消したりするために地階に降りて、鬱蒼とした森の中を行ったり来たりすることになる。

 

しかし、下に降りるともうその火元が見えないし、もうどっちの方角で火が上がってたのもわからなくなる。そこで君はついに(億劫で)(嫌々ながら)地図とコンパスを使う。このキーボード配置が若干遠くに在るので、実際何度も出したり仕舞ったりするのは超面倒。しかも出してる間は走れない。

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地図にはあたりをつけた場所が勿論乗っている。だが地図は地図なので、自分が見ている方向との照応性はない。なのでコンパスと突き合わせながら方向を正して、改めて周りの地形と照らし合わせなければならない。それから景色を見渡しながら、さっきみた地図の記憶を頼りにおずおずと進む。だが、森は濃くてランドマークもない。地図を逐一確認しないと、君は行き先を見失って間違ったまま道を突き進んで、すぐ自分がどこにいるかもわからなくなり、泣きながらさっきの道を戻ることになる。どう考えても最悪に不便で不快な経験だ、普段ならば。

 だがこのゲームの最もエキサイティングな経験、それは迷うことだ。

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 なぜなら現実の世界で迷うことを「自分から」望むのは難しい。そもそも目的がなければ迷わないので散歩とも違う。迷うというのは間違った道を進むことだから、当然普段から迷ってばかりではいられない。目的があって迷うことが出来ても、「何時に◯◯へ…」のような時間的な条件があれば、目的地から遠ざかったりすればもはや精神の余裕は全く無いし、間違いなくパニックになる。

 

その点このゲームは、最高に望ましい形で迷うことができる。時間はたっぷりある。君はいい景色があったら使い捨てカメラで撮ってもいい(この使い捨てというのが実に良い、実質20枚程度しか撮れないから、必然的に撮るべき景色を良く考えることになる)し、地図とコンパスを見ずに記憶だけでどこまでいけるのか試してみてもいい。多分、失敗するが、失敗した先に発見があるかもしれないという期待は、むしろ君を積極的に迷わせるだろう。

 

またストーリーに関係があってもなくても、発見したものにつけてしばしばトランシーバーをつけて窓口の先の女性と雑談できるイベントが用意されている。この雑談の内容は大抵くだらない。これで何を思い出すかと言えば、MGS1~3のやりこみ要素としての、くだらない無線だ。他愛ないおしゃべりは素晴らしい。

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 この会話は基本的にラジオを通してリアルタイムで行われるが、相手の答えに対して返信が自動的に現れるのではなく、まずラジオをつけてそれに反応するか、しないかを選択できる。つまり、そこで応答しないこともできるし、その場合にも「応答しなかった」ことへの反応がある(「応えるのがそんなに難しかった?」とか「答えたくないならいいけど」とか)。

 

 返信のタイミングにtabキーを押せば、更に最高3つの選択肢の中から応えることになる。この選択中にも時間制限は進んでいて、反応しなければ時間経過の非回答として会話が進行する。こんな具合に、トランシーバーの会話にしては非常にインタラクティブな会話なのだ。

 大抵の会話はそれほど重要ではないので適当に答えるといいが、時にトランシーバーの女性の繊細な気持ちに応えるような状況で、毎度三つの選択肢から時間制限ありでベストのものを答えようとしたり、あるいは何かウィットの効いたことを応えたいと思った場合は、確かにネイティヴ以外にはしんどい部分だし、もちろんネイティブにも悩ましいものだろう。(かく言う僕もネイティブじゃないので、気を抜くと重要な英語の指示が左から右に出ていくが、最低限の指示は確認できるようになっているし、そもそもそれほど複雑な指示はありえない。)

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 ところでこれが逆だったら、つまり毎回リアルな会話の選択肢に、何分でもかけて最良の選択を選べるような状況だったらどうだろうか?それは会話自体の魅力を、与えられた会話の選択肢に自分の気持ちを近づけて成功させようという気持ちを削いでしまうし、相手と同じ時間と状況を共有してる気分にはなれないかもしれない。つまり、時間内に答えなければならない、という状況は、時として、何時間でもかけて答えられるよりは緊迫感が維持され、ゲーム体験が刺激的になる可能性がある。

 

 ゲームにおいて、確かにその空間自体の質が、ゲーム体験を決定するほどに重要な要素になり得る。本作の彩色が強くてテクスチャーもゴテゴテした感じは懐かしい感じを覚えさせて好印象だ。だがそれだけで終わりのはずがない。多くの人は、よく出来た箱庭を与えられれば、気分が最高になり、ゲームレビューに5つを付けるほど感受性は開かれていないのだ。加えてそういうゲームは思索を必要とせず、割りと簡単に作れて、もっと最悪なことにB級ゲームとして市場に溢れかえっている。

 

 そこで、なにができるのか、何をすべきなのか、あるいはまた何ができなくて、何をするために時間をかけるべきかを用意することこそ、むしろ当面ゲームがより追求すべき問題じゃないか?この点で、ゲーマーは決して生のままの自由(レッセフェール)を望まないのは確かだ。時にこのゲームのように、地図とコンパス、そしてラジオの向こうの女性の指示を頼りに、森の中を頭を使って彷徨いたい、迷いたいと考えているはず(だがこれは矛盾した願いなので彼らの頭にはそうそう浮かばないだろう。)